フレッシュ名曲コンサート
大井 駿×山下愛陽 スペシャルインタビュー今回の「フレッシュ名曲コンサート」の指揮者には、大井駿(おおい・しゅん)さんをお迎えします。
大井さんは今年、アルメニアで開催された「第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門」にて、第2位ならびに古典派交響曲ベストパフォーマンス賞を受賞されました。指揮のみならず、ピアニスト・古楽器奏者として演奏活動をするほか、メディアでの執筆活動など、さまざまなフィールドを横断する稀有な若手音楽家として注目されています。
ギター独奏には「第66回ARDミュンヘン国際音楽コンクール」セミ・ファイナリストの山下愛陽(やました・かなひ)さんが登場します。
ギタリストの新星が奏でる繊細な音色で、ロドリーゴがスペインの平和を祈り作曲した「アランフェス協奏曲」を演奏します。
そんなお二人の魅力を紹介すべく、インタビューに答えていただきました。
<指揮・大井 駿さん>
Q・ピアノ・指揮・古楽と様々なフィールドで活躍されている大井さんですが、音楽を始めたきっかけを教えてください。きっかけは、祖父が音楽好きだったことと、親がピアノを習わせたことです。
ピアノを習い始めてからは、音楽の楽しさや追求のしがいを感じるようになり、小学校の頃からは近所の大きな図書館のCDや音楽図書を舐めまわすように借りては一日中聴き、CDのブックレットもコピーしては読んでいました。
もちろんピアノ作品だけでなく、オーケストラ作品やオペラなどの幅広い作品に触れることができたのは、今でも財産だと思っています。
高校1年生の頃までは、まだ将来の方向性は定めていませんでしたが、実際にヨーロッパへ何回か行くうちに、音楽家になりたいという気持ちが大きくなり、高校を卒業してからヨーロッパで音楽の勉強を始めました。
Q・今回のプログラム、選曲のポイントを教えてください。今回の演奏会に横たわるテーマは「スペイン」です。特に前半の2曲は、スペインらしさが色濃く出ています。
ロッシーニが書いた恋愛ドタバタ物語、歌劇『セヴィリアの理髪師』の舞台となっているのは、スペイン南部にあるセヴィリアで、演奏会の一番初めに、この歌劇の序曲を演奏します。
そしてロドリーゴのアランフェス協奏曲は、いうまでもなくスペインそのものの空気をまとったような作品です。
そして後半に演奏するシベリウスの交響曲第2番も、スペインとの意外な繋がりがあります。第2楽章はドン・ファン(ドン・ジョヴァンニ)の伝説に感化されて書いた音楽なのですが、このドン・ファン伝説はセヴィリアでの話です。
そして、シベリウスの交響曲第2番は日本フィルハーモニー交響楽団が第1回定期演奏会にて演奏した大切な作品でもあるのです。
Q・演奏曲それぞれの特徴や、魅力はどこですか。ロッシーニの歌劇『セヴィリアの理髪師』の序曲は、これから始まる物語を想起させるワクワク感が魅力的です。元々、この序曲は他の歌劇からの転用なのですが、それでも演奏会の幕開けには持ってこいの作品です。
そしてアランフェス協奏曲は、フラメンコやカンテホンド(ギターと歌い手の2人で演奏される哀愁を帯びた音楽)を元に作曲されている通り、スペイン情緒が曲全体に散りばめられています。スペイン内戦に心を痛めたロドリーゴが作曲したという経緯もあり、スペインの持つ明るさだけでなくメランコリーも色濃く投影されているのは、この曲の大きな魅力でしょう。
シベリウスというとフィンランドのイメージが強いかと思いますが、この作品のほとんどはフィンランドとは正反対の気候を持つイタリアで作曲されました。まだ30代のシベリウスが書いた、若いエネルギーと鮮やかな色彩感に溢れる交響曲を、ぜひ堪能いただきたいと思います!
Q・今回、ギター山下愛陽さんと初共演ですが、どのような印象をお持ちですか。名前とご活躍は以前より拝見しておりましたが、この度山下さんと共演させていただくのは初めてです。これまでに各地のコンクールなどで入賞され、若くして様々な場所で認められて活躍されていらっしゃるという印象を持っております。ともにどのような音楽を作り上げられるのかがとても楽しみです。
Q・最後に、練馬文化センターのお客様にメッセージをお願いいたします。練馬文化センターでの演奏は初めてなのですが、この演奏会を非常に楽しみにしておりました。どれも魅力に溢れる作品です。ぜひ足をお運びいただけますと嬉しいです!
<ギター・山下愛陽さん>
Q・ギターを始めたきっかけ、ギタリストを目指した理由を教えてください。幼い頃から、父が奏でるギターの音色が日常にあり、その響きに魅了されたことが、ギターとの出会いでした。
やがて姉や兄もギターを手にするようになり、その姿を傍で見ながら、私もすぐに弾きはじめ、気づけばすっかり夢中になっていました。
実家にはヴァイオリンやピアノ、琴や琵琶といった和楽器、両親が音楽研究に使っていた東洋の伝統楽器など、様々な楽器が置かれており、そうした環境の中で多様な「音」に触れる機会を得ましたが、その中でも、やはりギターの音色の豊かさに最も惹かれ、今でもそれは変わりません。
1本の楽器で自身の表現を自由に追求し、奏でる音楽が人々の心に届くと同時に自分の世界が広がっていくーそんな演奏家としての道を両親が支えてくれ、留学以降はドイツ、そしてヨーロッパ各地、最近では世界各地での演奏旅行を通じて、多くの刺激を受けながら、自身の演奏を探求し続けています。
Q・初めてクラシックギターの演奏を聴くお客様もいらっしゃるかと思いますが、ギターの魅力を教えてください。世界には、「一家に一台ギターがある」という国が今なお多く存在し、人々が集うと自然とお互い演奏が始まる光景が日常的に見られます。
2022 年に訪れたメキシコでも、パーティーの夕食後に、その家にあった数本のギターを皆がそれぞれ手に取り、夜が更けるまで即興演奏をしたり、一人が伴奏をはじめると全員が歌ったりする情景がとても印象的でした。
ギターという楽器が人々の日常に根ざし発展してきたこと、クラシックギターの楽曲や奏法にもさまざまな影響を与えていることを、改めて実感したひと時でした。
フラメンコ、ラテン、フィンガースタイルなど、さまざまなジャンルによって異なる役割を担い、楽器自体の構造にも多様性を持つギターですが、その中でもクラシックギターは特に幅広い要素が融合し、非常に豊かな音色と奏法、そして表現力を持つのが特徴です。
繊細でありながら力強く、奥行きのある音色。身体に抱きかかえられた楽器から発せられる音は、まるで奏者の声のように響き、その一体感もギターならではの大きな魅力だと思います。
Q・今回の演奏される「アランフェス協奏曲」は山下さんにとってどんな曲ですか。聴いてほしいポイントはありますか。ギター協奏曲と言えば「アランフェス」、ギタリストなら誰もが一度は演奏するほどの、まさに代表的な作品であり、私自身も 10 代の頃から演奏してきた、思い入れの深い曲です。
特に第2楽章のメロディーは、一度聴いたら忘れられない情緒豊かで美しい旋律として知られています。
各楽章を通じて、ギターの全音域をアクロバティックに駆け巡り、存在する限りの多彩なギター奏法がふんだんに盛り込まれた、その豪華でダイナミックな曲調を持つアランフェス協奏曲は、クラシックギターを初めて聞く方にもお楽しみいただけると思います。
また、曲中の各所で登場する管楽器とギターの掛け合い・対話にもぜひご注目ください。
Q・今回、指揮大井駿さんと初共演ですが、どのような印象をお持ちですか。大井さんは指揮者としてだけでなく、ピアニストや古楽器奏者としても幅広くご活躍されており、ドイツにも留学されていたとのことで、今回このような機会にご一緒できることをとても楽しみにしています。
私自身も、ドイツ留学中にギターと声楽を並行して学び、近年はリュートやテオルボなどで演奏される古楽作品の編曲にも力を入れています。
そして実は、留学先を決める際に、大井さんの母校であるバーゼルのスコラ・カントルムに集中的に聴講に通ったこともあり、そうした点でもご縁を感じています。
共通の関心、長いヨーロッパ生活、幅広い分野での学び、などといった近い経験を持つもの同士として、お互いの音楽家としてのエッセンスを、音楽表現を通して感じられるのではないかと、今からとてもワクワクしています。
Q・最後に、練馬文化センターのお客様にメッセージをお願いいたします。練馬文化センターで演奏させていただくのは今回が初めてとなりますが、ギターの魅力が詰まった「アランフェス協奏曲」を、日本フィルハーモニー交響楽団の皆さま、そして大井駿さんと共に、素晴らしい舞台で演奏させていただけますことを心から嬉しく思っています。
ギター特有の響きにのせて、私の表現、作品に対する想いをお届けできればと思っております。
皆さまのご来場を心よりお待ちしています。
【公演情報】
フレッシュ名曲コンサート 大井 駿×山下愛陽×日本フィル
2025年10月5日(日)15:00開演(14:15開場)
練馬文化センター大ホール
大井 駿(指揮)、山下愛陽(ギター)、日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
https://www.neribun.or.jp/event/detail_n.cgi?id=202504261745665859